ハーナー
シャーマニック・ヒーリング
私たちは独りではありません
マイケル・ハーナー博士へのインタビュー
マイケル・ハーナー博士 Michael Harner, Ph.D (1929-2018) は、人類学者で、シャーマニズム研究財団の創設者です。同財団は、国際非営利団体として、地球上に残されているシャーマンの知識を保護するとともに、現代社会に役立てるべく、その基本原理を伝達することを目的としています。ハーナーは、1961年からシャーマニック・ヒーリングを行い、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得。その後、ニューヨーク市のニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチの大学院で人類学部の学部長 兼 教授を務めました。コロンビア大学、エール大学、UCバークレー校で教鞭をとったこともあります。その他、ニューヨークアカデミー オブ サイエンスの人類学部では、共同学部長を務め、著書には、「The Jívaro (仮訳:ヒバロ族)」、「Hallucinogens and Shamanism (仮訳:幻覚剤とシャーマニズム)」、そして名著「シャーマンへの道」があります。ハーナーは、アマゾン川上流地域、メキシコ、ペルー、カナダ北極圏、サーメランド、北米西部の先住民族と共に暮らし、シャーマニズムを学術的に追究しました。
Q:シャーマニズムとは何ですか?
マイケル・ハーナー:トゥングース語で「シャーマン」とは、変性意識状態で、非日常的リアリティ(非物質世界)を旅する人のことを言います。当時、西欧世界の人々は「シャーマン」が何を意味するのかわからなかったので、その言葉をそのまま引用しました。近い訳語としては「魔術師」「魔女」「妖術師」「まじない師」がありますが、それぞれに独自のニュアンス、多義性、先入観があり、「シャーマン」が意味するものと完全には一致しません。「シャーマン」は、シベリア地域を起源とする言葉ですが、人類が生存したあらゆる地域でシャーマニズムの習わしがあったことが確認されています。
シャーマニズムを長年にわたって研究したミルチア・エリアーデは、著書「Shamanism: Archaic Techniques of Ecstasy(シャーマニズム:古代的エクスタシー技術)」の中で、地球上に存在する全ての精神的伝統文化はシャーマニズムが基礎になっており、シャーマニズムの複数の特徴の中でも最も顕著なのは、変性意識状態における非物質世界への旅である、と結んでいます。
シャーマンは、それぞれの地域の言語で、よく「見える人々」あるいは「知っている人々」と呼ばれます。それは彼らが実体験に基づく独自の知識システムを持っているからです。シャーマニズムは、宗教のような信念体系ではなく、治癒、情報入手等、シャーマンが個人的に行ってきた経験に基づいています。事実、シャーマンが期待される結果を出せなければ、その部族からシャーマンとして信頼されなくなります。私はよく「どうしたらその人がシャーマンだとわかるのですか?」と訊かれますが、「簡単です。その人は非物質世界に旅ができますか?奇跡を起こせますか?」という返事をします。
Q:シャーマニズムは宗教ですか?
シャーマニズムは、宗教ではなくひとつのメソッド(方法)です。そのため多くの文化圏においてその土地の伝統的宗教と共存してきました。モンゴル周辺地域では仏教・ラマ教と、日本では仏教と併存しています。またシャーマンはよく精霊信仰が存在する文化圏に見られます。精霊信仰とは、精霊の存在を信じることで、精霊と交信し治癒などを行うシャーマンがいる文化圏では、ごく自然に精霊の存在が信じられています。しかし、シャーマンは精霊を信仰しているのではなく、実際に話をし、やり取りをしながら仕事をします。シャーマンにとって精霊の存在とは、自分たちに住む家があり、家族がいるのと同じくらい現実的でリアルな事なのです。シャーマニズムは信仰体系ではないので、このことをしっかり理解することが大切です。
また、シャーマニズムは排他的ではありません。シャーマンは「我々の治癒方法が唯一有効な手段だ」というようなことは言いません。治癒の包括的アプローチとして、シャーマンは植物治療、マッサージ、接骨などができる地域の施術者と協力し、霊的な手法を自在に使いこなします。シャーマンの目的は患者の回復を助けることであって、自分の治癒方法が唯一有効であると証明することではないのです。
シャーマン文化圏では、多くの場合、仕事の報酬として依頼者がシャーマンにギフトを贈ります。しかし、患者が死んだ場合、シャーマンは全てのギフトを依頼者に返します。このことは、私たちが今日の医療サービスの費用を考える際に役立つ、賞賛すべき行為ではないでしょうか。
Q:シャーマニック・ヒーリングには薬物治療と霊的治療の二つがあると理解しておりますが。
シャーマンは、植物、動物を含む自然全般と交信することができます。単なる比喩表現としてではなく、変性意識状態において実際に会話ができます。シャーマニズムを学ぶ生徒たちは程なく、「植物と会話ができるようになれば、植物を使った薬の作り方が発見できる」ということがわかるようになります。シャーマンは太古の昔から植物を使った治療をしてきているので、彼らの植物に対する知識は深淵です。しかし必ずしも植物の知識がシャーマンにとって不可欠というわけではありません。例えばエスキモーシャーマンの居住環境では植生が僅少なので、他のものを利用しています。一方アマゾンのシャーマンは、様々な植物の知識だけでなく、それぞれの植物特有の歌も知っています。歌はふつう植物から直接教わります。
米国で私が教えていたある生徒は、植物から直接教示され、治癒に使える植物を発見し、利用する方法を編み出しました。そして、それら治癒薬の基準書を編纂するにいたったのですが、後になって、それが多様な疾患用に植物の調整・使用方法を著した中国古代の薬物品質基準文書の内容に非常に近いことがわかったのです。また、ドイツのある生徒は、鉱物から教わって、鉱物を使った治癒方法を発見したのですが、この方法は古代からインドに伝わる方法に酷似していることがわかりました。
こうしてみますと、今まで人類に明らかになってきた知識だけでなく、将来明らかになる可能性がある新しい知識も含め、変性意識状態のシャーマンには入手が可能である、というある重要なポイントに辿り着きます。だからこそシャーマンは預言者になったり、過去の出来事を知ることができたりするのです。修練、訓練を重ね、精霊の助けを借りて、全知識の源泉にアクセスできるようになるのです。
Q:患者がシャーマンに治癒を求めると、シャーマンは何をするのですか?
例えば、シャーマンは患者が霊的な観点からどのような問題をかかえているのかを調べるため、(非物質世界に)旅に出ることがあります。物質世界での診断結果はそれほど重要視されません。霊的疾患と肉体的疾患は、単に一対一で合致しているわけではなく、「この肉体的疾患であれば、あの霊的疾患が原因だ」とはならないのです。そのためシャーマンは霊的な疾患原因を探るために非物質世界へ旅出ち、その結果から治療方法を決めます。
シャーマン的観点から見て、パワフルでない人、つまり、霊的にパワーが欠如している人は、疾患、事故、不運に遭いやすくなります。これは人が通常考える疾患の定義を超えたものです。患者に自分自身の霊的パワーとのつながりを取り戻させるのもシャーマンの仕事です。霊的パワーとつながることで、霊的な免疫システムを回復できるのです。しかし、霊的パワーと霊的免疫システムは、同一ではありません。ただ類似しているという意味です。霊的パワーがあれば疾患に対する抵抗力が生まれます。逆に疾患が繰り返されるようであれば、その患者は明らかに霊的パワーとのつながりを失っているので、取り戻す必要があります。一方健全な人が自分の霊的パワーとつながるために、ビジョンクエストの旅に出ることもあります。それができない状況にある人のために、代わりに旅に出てあげるのもシャーマンの役目です。
今日の文明社会では、精神と肉体のつながりについて話をすると、よく前衛的だと言われますが、実際、脳が他の身体部分と関係しているという事実はもはやそれほど刺激的なニュースではありません。何千年も前から人々はこのことに気づいていたのですから。むしろシャーマニズムで注目すべきなのは、私たちは独りではないということをシャーマンが知っていること。つまり、一人の人間が慈愛をもって、他者を苦しみから救おうとする時、霊的ヘルパー(精霊)が惹きつけられ助けてくれる、ということなのです。私利私欲のない人が、寛大で慈愛に溢れた心をもって、家族以外の人を疾患、疼痛、苦痛から救おうとする時、――二人以上のシャーマンが加わる時はさらに効果的になりますが――奇跡が起きます。シャーマニズム発のトップニュースは、脳が他の身体部分と関係している、ということではなく、人間は独りではなく霊的ヘルパー(精霊)がいてくれる、ということです。
Q:魂の断片の再統合とはなんですか?
トラウマを持つ人の場合、シャーマン的観点から、魂の一部が失われている可能性があります。ここで魂というのは、人間の人生全般に不可欠な霊的要素です。人生とは一般的に考えられているように、受胎あるいは誕生から死までを言います。欠損した魂を治癒する方法は、魂の断片再統合テクニックと呼ばれ、シャーマンの伝統的方法のひとつです。具体的には、魂の欠損部分を捜し出し、それを取り戻すことです。
八年ほど前まで、西欧の人々の多くは魂の断片再統合など迷信に過ぎず、効力のないものと考えていましたが、最近変化が見られます。その大きな理由として、私の同僚の影響があると言ってよいでしょう。数年前、ニューメキシコ州サンタフェで、この同僚である彼女がシャーマニック・セッションを開きました、セッション中、参加者の中に子供の頃深刻な虐待を受けた経験をもつ女性がいると、彼女たちはたいてい、虐待を受けた当時、その状況から自分自身を物理的に遠ざけた、と話すのです。これを聞いてこの私の同僚はすぐに、彼女たちの魂の一部(全部だったら、死んでいたでしょう)が失われてしまっていることに気づきました。シャーマニック・ワークの実践者として彼女は当然、この失われた魂の部分を捜して取り戻す必要があると考えました。そして幼少時代に重篤なトラウマを負ったこの女性達に魂の断片の再統合を行った結果、驚くべき結果が得られました。そんな彼女の影響もあり、西欧では現在、魂の断片再統合がシャーマニック・ヒーリングの重要な位置を占めています。
実際、あるグループに、「魂の一部を失くしてしまったと感じている人はいますか?」と訊くと、大概全員が手を挙げます。人は心の奥底でこうした問題を自然に認識しているのです。軽度のトラウマでも魂の一部が失われることもあり、治癒することができます。
シャーマニック・ヒーリングで使われる主なテクニックのひとつに、摘出メソッドがあります。摘出には、霊的侵入者を追い払うという作業もあります。物質世界に感染があるように、霊的世界でも侵入されることがあるのです。しかし、「邪悪」な霊が入り込んだという意味ではありません。木造の家に住みつくシロアリのようなもので、自分の家がそうなったとしても、「シロアリは邪悪だ。」とは思わず、「とにかく我が家から追い出したい」と考えるはずです。同様に、シャーマンは健全な肉体にとってやっかいもの、例えば霊的侵入者が入ったとき、それを追い出す作業をします。この場合、他の世界へ旅をする必要はありません。ミドルワールド(中間世界=この現実世界に於ける物質的非物質的両方の側面)において変性意識状態で摘出作業を行います。 (*シャーマン的上方世界、下方世界というのはこの世界を超越した世界)
Q:シャーマニズムにおける変性意識状態へどうすればなれるのですか?
シャーマニズムの世界では90%が、単調な打楽器音を使って意識を変性させ、変性意識状態にはいっていきます。打楽器は、ドラムが最も一般的ですが、スティック、ガラガラ、あるいは他の楽器が使われることもあります。おそらく残りの10%は、幻覚剤を使っているのではないかと思います。
私は1961年、ペルー東部のコニボ族から、現地の幻覚剤を使うテクニックを教えてもらいました。アメリカに帰国し、アヤフアスカ(幻覚剤)を使い切ってしまった時、ドラムを試してみました。期待していなかったのでうまくいった時はとても驚きました。考えてみれば、ドラムは世界のほとんどの地域でシャーマンが繰り返し使ったとされる道具なので、驚くべきことではなかったのですが。実際、シャーマニズムで実践されることは全て、実績があるからこそ、現在まで残っているのです。何万年もの間、シャーマンは薬草などを利用しながら、魂、精神、心を駆使し、人々を治癒する方法を試し、開発してきました。繰り返しになりますが、この治療法は長年の間試されてきたのです。ですので、90%のシャーマン文化圏のヒーラーが打楽器音を使っているということであれば、それがどんなものか試したくなります。そして、やってみるとやはり効果があるのです。
摘出テクニックの話に戻ります。この方法は、変性意識状態で患者を診ることから始まります。旅と摘出を含んだほとんどのシャーマニック・ヒーリングは、非常に単純な理由から暗闇の中で行います。物理的な目には見えない世界に移動するために、物質世界の刺激――光、音など――を遮断する必要があるからです。暗闇の中で「X線的な視覚」で患者の体を診察し、疾患の有無、場所を特定、摘出することを学ぶのです。
Q:除霊のようなものですか?
除霊は摘出と関連していますが同じではありません。シャーマン的観点から、霊的な作業をする目的で旅立つ際、ミドルワールドから出て行くことはとても重要です。昔シャーマンはミドルワールドを旅し、遠くに住む家族の様子を見に行ったり、移動性動物の群れの位置を確認したりしていました。しかし現在私たちが旅をするのは、シャーマン達が太古の昔から旅をしてきた下方・上方世界です。シャーマンはミドルワールドの霊的存在にあまり頼ろうとはしません。それは多くの場合、ミドルワールドの霊的存在が混乱していたりパワーが欠如していたりするからです。上方あるいは下方世界に旅すると、慈愛、パワー、知恵に溢れた霊的存在達に出会うことができます。
シャーマンによっては生きている人と同様、既に死んだ人も助けることができます。このようなシャーマンは「サイコポンプ(霊魂の案内人)」と呼ばれています。覚えておいていただきたいのは、シャーマン的観点では、昏睡状態の人も死んでいると考えます。そのためシャーマンが昏睡状態の患者を診る場合、非物質世界に旅立ち、魂を捜し出し、物質世界に戻ることを望んでいるかどうかを確認します。シャーマニズムは、患者の意思に関係なく、魂を物質世界に留めておくことを重要視していません。なぜなら患者にとって物質界に留まることが必ずしもベストな選択ではないからです。シャーマンは旅に出て昏睡状態の患者を捜し、患者の意思を確認します。そして患者が物質世界に戻りたいと言えば、魂を肉体に戻す手伝いをしますが、そこから先に進みたいと望めば――あるいはよくあることですが、死にかけている、あるいは、既に死んでいる場合には――その魂が納得する場所に案内します。患者の魂をミドルワールドに留まったまま漂流させておくことはありません。
除霊の話に戻りますが、憑依は、多くの場合、死んだことに気づかずミドルワールドに留まっている霊達によって起こります。パワーを失った人、あるいは、魂やパワーに欠損のある人は掃除機のようにこれらの迷える霊を引き寄せてしまいます。引き寄せられた霊からすれば望まない憑依というわけです。
シャーマンはそのような霊が自ら死んだことを認識し、了承した上で、ミドルワールドから連れ出し愛する人々のところまで案内します。この上で、除霊された患者の魂と力の欠損を修復し完全な形に復旧します。こうすることで患者をさらなる憑依から守ることができます。除霊の仕事は、それぞれのシャーマン文化圏によって若干異なりますが、基本原理は同じです。シャーマニック・ヒーリングの施術者が一般医療従事者と協力して疾患の霊的側面を治療できることの重要性を、いつの日か社会が認めるようになるよう願っています。
Q:社会が今それを認めない理由はなんだと思いますか?
残念にも科学がその歩みを始めた時、ヨーロッパの教会への反発もあって、魂と霊は実体のないものである。従って科学理論においてそれらを考慮することはできない、と定めました。それが前提条件として存在したため、皮肉とも言えますが、18世紀に信仰宣言が発布される結果になりました。しかし事実、科学が霊の存在を否定したことは一度もありません。21世紀を目前に控えて、私はこう言いたいと思います。今こそ信仰(霊は存在しないという信仰)をベースとする科学を中止し、真実の科学を追究する時が来ました。真実の科学とは、「ある特定の要因は存在し得ない」という前提条件をもたない科学です。
Q:シャーマン的摘出ヒーリングの話に戻しますが、摘出すべき疾患というものはそもそもどこから来るのでしょうか?
シャーマン的観点から見ますと、人間は誰でも、認識の有無に関わらず、霊的側面を持っています。怒り、嫉妬の感情を持ったり、敵対的態度をとった時、人は言葉や肉体を使って他人に対し乱暴なエネルギーを放出するだけでなく、無意識に霊的エネルギーにもダメージを与えることがあります。シャーマンの原理を知らないと、霊的レベルで人を傷つけてしまうことにもなりかねません。
エクアドル東部に住むウンツリ・シュアール民族およびヒバロ民族とは、長期間一緒に暮らしたことがありますが、彼らはこの霊的侵入を「マジカル・ダーツ」と呼びます。彼らの世界には多くの抗争、戦争があります。時にはヒーラー達が怒りで統制を失い、自らのパワーを仕返しに使うこともしばしばありました。しかしこれは大きな間違いです。倫理上の問題だけではなく、ヒーラー自身の身の安全のためにもやってはいけないことです。というのは、心情的に仕返しがどんなにら妥当だと考えられようとも、仕返しすることによって、偉大で、慈愛に満ちた、秘なる宇宙の代理人である霊的存在が離れていってしまうからです。私たちは充電式バッテリーのようなものですが、持っているパワーを人を傷つけるために使うと、電源から充電エネルギーが送られてこなくなります。私はこれが起きるのをアマゾンで何回も目撃しました。シャーマン達は、怒りに任せて、しばらくは他人に危害を加えることができますが、最終的には自分が与えたもの全てが自分自身に帰って来るので、多くの場合、命を落としたり、苦悩したりする結果になります。それだけではありません。自分たちの肉親にも重篤な被害が及びます。
だからといって人に対して怒りの気持ちをもってはいけない、という意味ではありません。その境界線を知り、自分自身を修練することが大切なのです。誰かに対して怒りを感じた時は、言葉を使ってその感情を発散させ、精神面のコントロールをします。一方肉体的な面については、痛みや苦しみを取り除く努力を怠ってはなりません。逆にそれらを増すような行為をすれば、手立てがなくなり、死に至ることになります。私の理解が正しければ、シャーマンが患者の完全性とパワーを回復させると、患者がたとえどんな問題を抱えていようと、治癒します。つまり、パワーに満ちた人は、自分で自分を治癒する能力を持っている、ということになります。
これをシャーマン世界に馴染みのない人が聞くと、患者が自分で自分を治癒できるように聞こえるかもしれません。物質世界の「自己治癒」の概念には、精霊の存在や働きが含まれていません。しかしながらシャーマン的観点から見れば、本人の認識の有無にかかわらず、人間は精霊の助けなくして大人まで生き延びることすらできません。自己治癒の概念は、現世的なものであり、現世的な話をしている限り問題があるわけではありません。自分の疾患は自分で責任を取るように、と教えているのですから。ところがこれに留まらず、死ぬのも自分の責任であるとしています。そうなると、臨終の時点で、人間は全員落第となってしまいます。その考え方では、人間は死までを含む人生の全責任を負っているのですから。シャーマン的観点からすると、人間はそれほど偉大な存在ではありません。森羅万象の中で人間は必ずしも最重要な存在ではないのです。シャーマンはより謙虚な考え方をもっていて、自己治癒のように見えるものは存在しますが、実際は、精霊などに助けてもらっている、と理解しています。当然、その中でのシャーマンの役割は、精霊からの助けをより確実に得られるようにすることです。
Q:では患者は自分では治癒していないのですか?
例外はありますでしょうし、それを除外するつもりはありません。自己治癒は非常に現世的に現実を捉えた考え方ですが、ひとつの意識レベルだと考えます。脳が肉体とつながっていると認識できるレベルと言えるでしょう。
Q:特に治療への影響という点から、日常的リアリティと非日常リアリティの違いを教えてください。
「日常的リアリティ」と「非日常的リアリティ」という言葉は、カルロス・カスタネダによる造語です。日常的リアリティとは、誰もが一緒に同じものを認識できる現実で、たとえば壁に時計がかかっている、と誰が見てもわかる世界を言います。一方、非日常リアリティは、シャーマン的意識レベルにつながる世界で、言い換えますと、意識が変容して、通常の意識状態では見えないものが見える世界です。
日常的リアリティは、誰であっても同じ認識ができる世界なのに対して、非日常的リアリティは個人によって全く別の認識をする世界です。非日常的リアリティで得られる情報は、その個人用のオーダーメードであって、他の人には全く認識できないこともあります。一方、日常的リアリティで得られる情報は、皆が同じように得られます。
非日常的リアリティは、経験的世界です。つまり、見、聞き、触り、交流したり、感じたりすることができる世界になります。シャーマンは、心の目を使って見ます。非日常的リアリティでは、別々の人が、あるひとつのものを見て互いに同じものと認識するためには、心の状態が同じでなければなりません。この世界(日常的リアリティ)では、各自の精神的状態に関係なく、あるもの、例えば部屋のドアは、誰が見てもドアに見えます。他界した私の母の写真をあなたに見せたとしましょう。二人がこの写真に対して抱く感情は同じではありません。しかし、私が「お母さん」と言ったとしましょう。するとそれを聞いた人たちは皆、それぞれ自分の母親の姿を思い浮かべ、その時心に抱く皆の感情は、お互いより近いものになるでしょう。全く同じにはなりませんが、より近いはずです。つまり、別々の人が心の目を使ってあるものを完全に同じに見るためには、その対象物が個人個人で少しずつ違っていなければならないのです。(皆がそれぞれの母親を思う事で同じ感情が得られる様に)人は皆、個性をもちそれぞれ別の人生を歩んでいるわけですから。
非日常的リアリティへアクセスできるかどうかは、日常的意識状態から離れ、どれだけ深くシャーマン的意識状態に達しているか、に関係しています。「非日常的リアリティ」という言葉は、それを思い出させてくれる便利な言葉です。また、どういう世界なのかを端的に表現している言葉です。非日常的リアリティにいる人がその世界のある場所で3年間暮らした経験をしたとしても、日常的リアリティでは、ほんの30分ほどの時間しか経過していないことがあります。人々は長い間このからくりを知らなかったため、シャーマンから「3年間旅に出ていて、その間、こんなこと、あんなことが起きた」と聞くと、理解に苦しんでいました。
Q:直感知とはなんですか?
シャーマニズムには直感知(問いの答え)を得る仕事もあります。
ある問いの答えを得るために、自分で、あるいはシャーマニズムを実践する人に頼んで、旅に出てもらいます。例えばシャーマンにとって全くの他人、つまりシャーマンがその人物について何も知らない依頼者が、ある問いの答えを求めたとしましょう。そんな場合でもシャーマンは旅に出、あるいは別の方法を使って、依頼者の人生に有益で、ぴったりの情報を持ち帰ってくることができるのです。これはとても興味深いことです。このようなことが可能なのは、情報を提供してくれる精霊達の存在があるからです。シャーマンは、回答を得る方法と彼(女)らの霊的ヘルパー達さえいてくれれば、あとは何も知らなくて良いのです。
Q:医者と看護婦はこの知識をどのように利用できますか?
私は時折、非公式に、シャーマニズム研究財団を「シャーマニズム大学」と呼びます。なぜこのようなことを今ここでお話しするのかと言いますと、この財団の主な目的は、教育を通してシャーマニズムをこの世界に取り戻すことだからです。訓練を受ける人の多くは医者や医療従事者です。彼らこそ、学んだ知識を実践に統合させる方法を見出だす必要がある人達です。それを実現するための既存モデルが存在するわけではありません。しかしこれから数年のうちに、財団で学んだ医療従事者を対象に大規模な協議会を開き、知識を実践に活かした経験などを情報交換する機会にしたいと思っています。
Q:財団はドラミングと健康についての研究をしていると聞いていますが、それについて教えてください。
あるカナダの財団の支援を得て、シャーマニズムにおける旅、ドラミング、健康に関して調査を行っています。私の妻、サンドラ ハーナー (Dr. Sandra Harner)は、the Shamanism and Health Project (仮訳:シャーマニズムと健康プロジェクト)のディレクターで、主に二つの研究を行っています。ひとつは、シャーマニズムにおける旅とドラミングが、感情と免疫反応の数値にどのような影響を与えるかについての研究です。この研究を通して、彼女は、ある種の心理学的な傾向もつ人たちが、免疫反応の上で、他の人たちよりもより効果的に反応するというヒントを得ました。これは明らかに非常に興味深いテーマです。また、シャーマニズムにおけるドラミングと旅を研究している人々の間では、幸福感の著しい高まりと、気分障害とストレスの減少が見られることも発見しました。これ以上の言及は時期尚早ですので控えましょう。
ハーブ治療を除くシャーマニック・ヒーリングは、この世界に知られる最古の治癒システムです。財団は限られた資源で研究を続けていますが、財団以外でシャーマニズムを研究するところが他にないのは残念なことです。霊的な要因が研究対象から除外されなくなり、科学が真の意味で完全な科学となる日を心待ちにしています。
医療従事者達がよく言う、「事例」というのが私たちにもあります。様々な治療を試しても回復が見られない患者は、よくシャーマンのところに来ます。ある時、そんな患者達がシャーマニック・ヒーリングを受け始めました。その後で再度臨床検査の結果を見ると、ヒーリングを始める前は陽性だったものが、陰性に変わっていました。医療従事者はこのような場合、よく、以前とは逆の結果が出ているのだから、前の診断に誤りがあったのだ、などという言い方をします。それはそれで良いでしょう。結局のところ、症例ごとに因果関係を証明するのは不可能なのですから。しかしそれなら「シャーマニズムの有効性をどう証明するのか?」と人は思うかもしれません。まあ、まずは自分で実践してみてください、実績の積み重ねが証明となるのです。
Q:今どんな研究をしているのですか?
現在私が最も注目しているのは奇跡の分野です。どのような原理が奇跡を起こすことと関係しているのかを突き止めようと、ここ数年費やしています。かなりの進歩があったと思います。シャーマニズムや奇跡に関する文献に記されていることほとんどについて、どうすればそうなるのか、今ならある程度の知識があります。それには治癒における奇跡も含まれています。来年からは、この分野のプロジェクトを最上級クラスの生徒たち数人と進めていきます。この情報を気兼ねなく公開するには時期尚早ですが、このプロジェクトで精霊達の存在が本当の意味で認識されることになる、ということは言っていいと思います。
ここで精霊達について補足したほうがいいかもしれません。というのも皆さんにはあまりなじみのない言葉ですから。精霊とはなんでしょうか?1961年、私はアマゾンのペルー東部に住むコニボインディアンと一緒に暮らしていました。あるシャーマンからアヤフアスカの使い方を習っていたのですが、毎晩様々な自然の精霊達の助けを借りていました。アナコンダの精霊、黒豹の精霊、淡水に棲むイルカの精霊、様々な木の精霊などです。
精霊たちは、私たちのところに見える姿で来てくれます。ある晩には、船外機の精霊のところに連れて行かれました。それに続いてラジオの精霊、飛行機の精霊にも出会いました。この訓練から、完全なる暗闇の中で、あるいは目を閉じた状態で見えるものは何であろうと厳密には精霊である、ということがわかりました。このように言うと、空中に浮かぶ単なる幻影のように聞こえるかもしれませんが、シャーマンたちはどの精霊が力を持っているのか知っています。そしてどの精霊がどのように私たちを助けてくれるのか見つけるのです。非日常的リアリティで出会うすべてのものは、厳密には精霊です。これが霊的世界の真実です。
Q:シャーマンが精霊とコンタクトすると、その後どうなるのですか?
非日常的リアリティから日常的リアリティへパワーの移動が行われます。この二つのリアリティは概念的には別個の世界ですが、シャーマンは二つの世界の間でパワーを行き来させることができます。成功すると、患者が治癒され、これが奇跡と呼ばれるのです。
Q:奇跡に興味をもつことになったきっかけは、実体験あるいは奇跡の目撃だったとのことですが、奇跡体験の一例を聞かせてください。
日常的リアリティで現在でも体験できるとてもシンプルな奇跡をお話しましょう。キャロル・ハーキマーという生徒の一人が、初級クラスの他の生徒と一緒に「スピリット・ボード」と我々が呼んでいるものに乗った時に起きた話です。スピリット・ボートとはオーストラリア、北米北西部沿岸地域、そしてアマゾン上流の先住民族が使うテクニックです。このテクニックでは、シャーマンがグループでボートに乗り、下方あるいは上方世界へ旅立ち、時間が存在しない世界に入ります。目的は治癒あるいは情報取得です。正しい訓練を受けたグループでボートに乗り、精霊たちの助けを借り、設定した目的のために全員一緒に旅を完遂できた時、それはとても強力なものになります。
キャロルの話に戻します。私たちは、マンハッタン南端部カナル・ストリートにある「ザ・キバ」というダンススタジオを訓練室として使っていました。他のダンススタジオと同様、床がピカピカに磨かれていたので、傷をつけないようにいつも気を使いました。キャロルは交通事故による怪我から完治していなかったので、他の生徒のように床のクッションに座らず、脚がメタルチューブでできている椅子に座りました。グループは旅に出、そして(日常的リアリティに)戻って来た時、それぞれがどんな経験をしたのか話し合いました。キャロルは、旅に出て非日常的リアリティに入ると、火の海の中を通る経験をしました。戻って来た時、彼女の椅子の下の床からは煙が立ち上がり、メタルチューブの脚の一方の金具が床に焼きついていました。彼女自身には何も怪我はなかったのですが、スタジオのオーナー達は後で床を見てとても怒っていました。今日までその焼け焦げ跡は残っています。
この事例だけではなにも証明することはできませんが、実体験を通してこのような偶然を積み重ねていくことができます。一つの事例だけで実際に何が起きたのかを正しく把握することはできませんが、ヒーリングで有名なシャーマンによる治療と、患者の回復の間に強力な相関関係を見つけた時―しかも他の治療方法では効果がなかった時―あなたはこの世界に興味を持ち始めるでしょう。
シャーマンの旅に出ようとするあなたが、精霊たちから愛され、力を貸したいと思われる存在であるならば、求めてもいない、思いもよらない多くの教えを得ることができるでしょう。一旦シャーマン世界の扉を開けると、その扉が何であれ、精霊たちはあなたのレベルに合わせて教えてくれます。あなたの人生は確実に変わります。シャーマンの旅は一度だけでもあなたの人生を変え始めるでしょう。
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翻訳コピーライト©2010年 シャーマニズム研究財団
Originally published in English at: http://www.shamanism.org/articles/article01.html
© Shamanism, Spring/Summer 1997, Vol. 10, No. 1
02 Jun 2010 Kevin